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釧路家庭裁判所 昭和52年(少)338号 決定

少年 H・O(昭三二・一・二七生)

主文

この事件について審判を開始しない。

理由

1  本件送致事実の要旨は、

「少年は、Aと共謀のうえ、正当な理由がなく、保護者の依頼または承認を得ないで、一八歳未満の○狭○代○(昭和三四年一〇月二七日生、当時一六歳)を普通乗用自動車に乗車させて昭和五一年四月五日午後一一時から翌六日午前零時二五分ころまでの間、標津郡○○○町○×○○×丁目先付近路上を走行し、もつて深夜同伴したものである。」というにあり、上記事実は北海道青少年保護育成条例二〇条一号、一一条二項に該当するものであるという。

2  同条例は「何人も正当な理由がなく、深夜において保護者の依頼を受けず、またはその承認を得ないで青少年を同伴してはならない」(一一条二項)旨規定し、前示規定に違反した者に対し五、〇〇〇円以下の罰金または科料に処するものとし(二〇条一号)、青少年とは学齢始期から満一八歳に達するまでの者(ただし、女子であつて配偶者のある者を除く、二条一項)であり、深夜とは午後一一時から翌日午前四時までの間(一一条一項)であると定義している。

ところで、同条例の規定自体よりして処罰対象とする「青少年の深夜同伴」行為とは「保護者の依頼を受け、またはその承認を得ない等正当な理由がない青少年の深夜同伴行為」であることは明らかであるが、それは一見すると極めて抽象的定義となつているものの、同条例の制定目的が「青少年の福祉を阻害するおそれのある行為を防止し、その健全な保護育成を図る」(一条)ことにあるとされることをも考慮するときには、「青少年の福祉を阻害」するに至る危険性が認められ、かつその行為の態様等の諸般の事情が社会倫理的秩序において許容されないものと認められる場合を指称すると解するのが相当である。

3  よつて本件記録をみるに、○狭○代○の司法巡査に対する供述調書によると、○狭は少年とは幼馴染の間柄であるが、昭和五一年四月五日午後一〇時三〇分ころ、○○○町内を歩行中、A運転の普通乗用自動車の助手席にいた少年より「どうしたのよ」と声をかけられたため、○○町にある実家に帰ろうと考え、「○○に帰るなら乗せて行つて」と頼み、少年らもこれに応じたので、後部座席に乗車し、その後Aが少年に「○○○町の親方のところに寄つて行く」といい、少年より「いいべ」と尋ねられたが、○○○ならそんなに時間がかからないと考え、「いいよ」と了承して○○○町内を走行中警察官に発見された旨の記載があり、また少年の司法巡査に対する供述調書にも同旨の記載がある。

以上の事実によれば、少年と○狭とは幼馴染であつて、深夜歩行中の○狭を発見した少年が不審に思つて声をかけ、○狭からその実家まで乗車させてほしいとの依頼に応じて乗車させ、○狭の承諾のもとに途中寄道をしたというものであつて、かくの如き行為をもつて到底「青少年の福祉を阻害」するに至る危険性があるものとは認め難く、またその行為の態様等諸般の事情からして社会倫理的秩序において許容されないものとなし難いことも明らかであるから、少年の本件所為は同条例一一条二項に該当しないことに帰する。

4  よつて本件については非行なしとして少年法一九条一項に則り、主文のとおり決定する。

(裁判官 大淵敏和)

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